書評 (Book Reviews)
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Beyond This Horizon (未知の地平線)
Robert A. Heinlein (ロバート・A・ハインライン)
◎書籍概要 (Book Description)
 ユートピアは実現した。もはや誰も病気や障害を患う事なく、虫歯や性病ですら過去の記憶でしかない。人類はすべて幸福なはずだった。 しかし、ハミルトン・243 (フェリクス) は人生に飽き、彼の親友モンローアルファは命のはかなさに絶望していた。 2人とも社会的な地位を得て、自由な生活を享受しているにも関わらず。。。
 ハミルトンは、決闘で見せた素早さから秘密組織に招待されるが、奇しくも同じ頃、彼の優れたゲノムを継続させるために政府当局から要請を受けることになる。 そして、モンローは突然妻から離縁を申し出られるが、2人で参加したパーティーで不思議な女性に魅了されて悲哀を忘れてしまう。
 そして、秘密組織が蜂起する。その時、ハミルトンは意外な人物が組織に属していた事を知る・・・。
◎書評 (Book Review)
 物語としてはやや退屈ですが、ハインライン先生の先見の明に感嘆します。
 この物語が出版されたのは1948年です。 遺伝子が二重螺旋構造であることが明らかになったのは1963年。DNAやRNAが酵素を作り出して利用しているのことが明らかにされたのはもっと後のことです。 また、1929年の世界恐慌によって金本位制が崩壊しましたが、この時代のいわゆるプレストン・ウッズ体制は、米国の金保有高を背景にした準金本位制とも言えます。 こんな時代に、酵素を利用した遺伝子操作が描かれ、金に依存しない経済概念が描かれていることに驚きを隠せません。
 そして相変わらず驚かされるのが、登場人物の口から発せられるハインライン先生のお説教です。 物語中、主人公のハミルトンが指摘するとおり、科学が答えられるのは「何(What)」と「どうやって(How)」です。 しかし、人が欲するのは「何故(Why)」です。 今の科学は未知が多すぎて「何故」に答えられないけれど、人は「何故」を求めずにはいられません。 物語の中で議長が言うとおり、(いつかは)科学が「何故」に答えられようにならなければ、科学はソロバンはじき以上のものではないでしょう。
 また、この物語では、優れた資質を持つ者たちが武装することによって他人を尊重せざるを得ない状況を作り出す慣習が描かれています。 こんな社会が正しいとは思いませんが、今の中国や日本を見ると、マナーの低下を防ぐ手だてがないことに憂いを感じているのも事実です。 ある新聞記事では、子供の携帯電話使用料が多いことに悩み、子供の使用料を抑制させられない親の様子が描かれていました。 私の子が通う小学校でも、先生が面談で子供のマナーに注文をつけようものなら、「そんなこと娘に言ったら、娘が怒っちゃうじゃない」なんて言う親がいます。 大人が大人じゃなくなっています。大人は、子供に義務と権利を教える存在であるべきなのに、昨今はどうも違ってきているようです。
 管理社会は存在自体が問題だけれど、自由社会は、個人の資質が向上しなかったら堕落してしまうのでしょう。
独断と偏見に基づくお勧め度 ☆☆☆☆☆
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