書評 (Book Reviews)
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Rollback
Robert J. Sawyer (ロバート・J・ソウヤー)
◎書籍概要 (Book Description)
 2009年、りゅう座シグマ星から太陽系にメッセージが届く。 サラ・ハリファクス博士が解読に成功し、回答を送信するが、その後、通信は途絶えたままだった。 そして2048年、突如、2度目のメッセージが届く。 しかし、不可思議なことに、メッセージは暗号化されていた。 87歳になったサラは再びメッセージの解読に取りかかるが、彼女に残された時間は十分にあるとは言えなかった。
 メッセージ解読のため、SETIのスポンサーである大金持ちがサラに若返りの提案をする。 この提案に対し、サラは60年間連れ添った夫ダンが一緒に処置を受けることを条件にする。 かくして、莫大な費用がかかる若返り処置がサラとダンに施されるが、悲劇は起きる。 処置によって25歳の肉体に若返りを始めるダンに対し、サラの肉体には何も変化がなかったのだ・・・。
 共に老いを重ねてきた2人に、突然の溝ができる。 それだけではない。 夢のような若返りのため、ダンは、周囲からまったく浮いた存在になってしまう。 いよいよ残り時間が限られてきたサラは、ダンの介護を受けながらメッセージ解読に取り組むが・・・。
◎書評 (Book Review)
 物語の題名"Rollback" (ロールバック) は「巻き戻し」という意味の単語ですが、この物語では"Rejuvenation" (若返り) の処置や処置を受けた人たちのことを指しています。 物語の粗筋は、(異星人とのコンタクトという意味で)"Factoring Humanity"と(寿命が変わるという意味で)"Mindscan"を足したような感じですが、 この2つの作品がそれぞれ異星人からのメッセージの解読、人工の身体と生身の人間の軋轢を中心に物語が進むのに対し、"Rollback"はサラとダンの関係に主軸が置かれて物語が進みます。
 どんな物語でも主人公は困難に向かい合うものですが、ソウヤーの作品は、末期癌やハンチントン病など、どうにも避けられない困難に直面する主人公がよく登場します。 正直なところ、ソウヤーの作品を読んでいると、読者の共感を得るために人物の掘り下げよりも同情を誘う人物設定を狙っているのではないか?と勘ぐることがあります。 しかし、人間、たとえ難病で死んでしまった家族がいたとしても、自分自身に災いが降りかからない限り、心の底から苦難を理解することはできないものです。 私自身、重度の疾病や事故によって家族を失い、深く悲しんだ経験はあるけれど、その不幸が自分に起きたこととして理解できたことはありません。 この作品は、まるでここに付け入るかのように、あり得ない状況を作り出すことによって多くの人に想像できる苦境を描き出します。
 本音を書くと、この物語を読む途中で何度も嫌な気分になりました。 何故かと言うと答えは簡単で、ソウヤーの物語に登場する人物は純真すぎるからです。 その純真な人物が、誰だって避けられない誘惑に負けて、でも純粋な心は捨てきれず、それでも理性的に生きようと頑張ります。 とてもソウヤーらしい物語なのですが・・・、そうですね、愛する家族がいる人が読むと、何とも遣る瀬ない気分に陥ると思います。 もちろん、ソウヤーの物語らしく(少々ご都合主義的ですが)結末には驚かされるし楽しめますが、ソウヤーに「やり方汚いんじゃないの?」と言いたくなる物語です。
 あと、どうでもいい話ですが、やはりソウヤーの英語は読みやすいですね。 ハインラインの「米国人のハートで読みやがれ」的な英語を読んだ後に読むと、ソウヤーの物語が多くの言語に翻訳されている理由が分かるような気がします。
独断と偏見に基づくお勧め度 ☆☆☆☆☆
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